安定という言葉を聞くと、すぐに公務員を思い浮かべる人がいる。英語では「public servant」――日本語では「公僕」と呼ばれる。以前、「公僕」という表現に「公務員を馬鹿にしているのか」と怒り出した人がいたが、歴史を振り返れば、昔の公僕は立派な髭を蓄え、馬に跨っていたものだ。それこそ一番下っ端の役人であってもね。だからこそ、言葉の背景を知らない人と話すと、どうしても噛み合わない奇妙なことになってしまう。
社会の教科書を開けば「全体の奉仕者」というお決まりのフレーズが載っている。公務員とはまさにそういう存在なのだ。それに対して、民間企業であれば「私僕」、すなわち「私の僕(しもべ)」であり、オーナーや会社の家来ということになる。公務員は国民の税金によって支えられているのだから、「全体の奉仕者」であり「公僕(public servant)」であって何ら差し支えない。むしろ私自身、経営において「servant」の精神を大切にしているくらいだから、この言葉の響きはしっくりとくる。
ところが、そうして公務員を志すようになった人たちが、蓋を開けてみると早期退職していくケースが実に多い。公務員から超一流企業に転職したとしても、やはりそこでもまた辞めてしまう場合が少なくないのだ。「公務員だから安泰だ」などと言われるが、はたして本当にそうなのだろうか。
「ディプレッション(depression)」という言葉がある。景気が悪化する経済的な意味での不況だけでなく、人間が精神的に落ち込む鬱(うつ)の状態をも指す言葉だ。つまり、経済的な底と心理的な底、その両方の「最も下がった状態」をこの一単語が言い表しているのだと、私は昔から言い続けている。
経済の面を見れば、かつてのリーマンショックの例を挙げるまでもなく、必ずしも「stable(安定)」とは言えない。ちなみに、「stable」といえば、ふと思い出すのは英語の授業のことだ。高校に入り、間もない4月のテストで、名詞として「馬小屋」という意味があると習ったっけ。教わったのは河合塾の青木先生か青村先生だったか、それともどこかの高専で教えつつ非常勤で来ていた青木先生だったか……。
世の中の常識をそのまま鵜呑みにするのではなく、もう少し思考の幅を広げ、多角的に物事を見つめ直してみる。そんな視点を持ってみるのも面白いのではないだろうか。 伊藤琢哉
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