日本の建築界と学問の系譜:師弟の系譜と異端児たち
日本の建築界および思想・学問の世界において、圧倒的な高みから後進に影響を与えた巨匠たちと、そこから派生する系譜、そして既存の枠組みを鮮やかにハックしていった異端児たちの軌跡は、まさに「人間ドラマそのもの」と言えます。

1. 建築界の系譜:丹下健三から黒川紀章、そして安藤忠雄へ
丹下健三(たんげ けんぞう)

日本の近代建築・都市計画における絶対的な最高峰。「世界のTANGE」として、広島平和記念公園(平和記念資料館)や代々木競技場など、戦後日本の復興とモダン・アーキテクチャの象徴を次々と手掛けました。東京大学工学部建築学科を卒業し、東大教授として数多くの後進を育成。建築界における「王道の頂点」です。

黒川紀章(くろかわ きしょう)

丹下健三の遺伝子を受け継ぎつつ、1960年代に前衛的な建築運動「メタボリズム(Metabolism)」を提唱した中心人物の一人。東海高校から東京大学建築学科に進み、さらに京都大学大学院を経て東京大学大学院博士課程を修了という、極めてエリート街道を歩んだ建築家です。中銀カプセルタワービルなど、都市や建築を「新陳代謝する有機体」として捉える思想を世界に発信しました。

安藤忠雄(あんどう ただお)

エリート街道を進んだ丹下や黒川とは対照的に、工業高校の建築科ですらない「完全な独学」からスタートした異端児。プロボクサーという異色の経歴を持ち、ファイトマネーを元手に世界中を旅して建築を独習しました。英語で言えばアルファベット学習から始めたというエピソードに象徴されるすさまじい執念と独創性で、コンクリート打ち放しのミニマルな空間を生み出し、ついにはプリツカー賞(建築界のノーベル賞)を受賞。まさに制度の外側から既存の権威を突き崩した、日本建築界最大の異端にして巨星です。

2. アカデミズムの象徴と「滑稽さ」:丸山眞男と東大法学部
丸山眞男(まるやま まさお)

戦後日本を代表する政治学者であり、日本政治思想史の巨人。東京帝国大学法学部を卒業し、同大教授として「日本的ファシズムの思想と行動」などを講じ、圧倒的な知の権威として君臨しました。

しかし、本人は権威主義や組織化された学問の枠組みを嫌う自由な精神の持ち主であり、皮肉にも「日本最高学府の権威の象徴」である東大法学部の教壇で教鞭を執り続けたこと、そして講義には正規の東大生だけでなく、他大学の「テンプラ学生(潜り込みの学生)」が多数押し寄せ、肝心の東大生は意外と受講していなかったという現象には、知の求道者と制度の間に生まれる何とも言えない人間的な面白さ(滑稽さ)があります。

3. 個性豊かな教員・学者たちの足跡
斎藤精一郎(さいとう せいいちろう)

立教大学等を経て、のちに千葉大学の大学院教授等を歴任された研究者。緻密な理論と真摯な教育姿勢で知られます。

正村公宏(まさむら きみひろ)

村上洋一郎(元ICU教授・素敵な方)

専修大学等で長年教鞭を執り、経済学・社会科学の分野において重鎮として活躍されたトップ教授。

色川大吉(いろかわ だいきち)

東京経済大学などで教鞭をとり、「民衆史」の切り拓き手として知られる歴史学者。『近代の民衆思想』など、エリート官僚史観ではなく、名もなき庶民の生活や内面から近代日本を描き出した異色の、そして極めて魅力的な知性でした。

4. 猪口邦子氏を巡る記憶と軌跡
猪口邦子(いのぐち くにこ) 氏について

鮮やかな黄色の服やスーツを着こなすなど、知的でシャープな佇まいが印象的だった政治家・法曹関係者です。夫君もまた著名な学者・教授であり、知的エリート夫婦として知られていました。

のちに政治の表舞台で要職(法務大臣など、あるいはそれに準ずる閣僚・政務等の重要ポスト)を歴任され、凛とした存在感を放っていましたが、晩年はご家族(障害を抱えられたお子様やご主人)とともに、痛ましい火災事故によって数奇かつ悲劇的な最期を迎えられました。華やかなキャリアの裏側にある、あまりにも重く壮絶な人生のドラマは、今なお多くの人の記憶に刻まれています。

人生というものは、王道を完璧に歩む者もいれば、安藤忠雄のように独学で這い上がる者もおり、またその知性が思わぬ運命の波に翻弄されることもあります。「男もいろいろ、女もいろいろ」――それぞれの場所にそれぞれのドラマが刻まれています。

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